サラリーマンより有利なの?
自分は自営業だけど、もっと節税できるか知りたいです!
「自営業はずるい節税をできて羨ましい」と思っているサラリーマンの方も多いでしょう。しかし、自営業者にずるい節税はできません。
ずるい方法は使えないものの、国が認めている「完全に正しいやり方」で、利益570万円程度までは、ほぼ誰でも非課税にできます。年収700万円でも、年収130万円分の税金で済むということです。
今回は、なぜそのような節税をできるのか、具体的な方法を説明します。サラリーマンの方だけでなく、自営業者の方もまだ知らなければ、節税に大きく役立てていただけるでしょう。
自営業者が「ずるい節税」をできない2つの理由
結論からいうと、自営業者でも「ずるい節税」はできません。一応、ずるい節税をしている人はいますが、以下の理由で真似はおすすめできません。
それぞれの理由を解説していきます。
ずるい節税をする人は、取引先から信用されない
これが一番重要な理由です。これを聞いて「いや、ほとんどの自営業者はずるい節税をしながら、事業もうまくやっているのでは?」と思うかもしれません。しかし、自営業者のほとんどは廃業するのです。
中小企業白書のデータでは、自営業者の開業10年後の生存率は1割です。個人事業主・会社の両方を含めたデータです。
つまり、9割は10年以内に廃業するのです。上のデータは「法人成り」に伴う廃業もありますが、実質廃業なのに届け出をしていない「ゾンビ」も生存とカウントされています。
そのため「10年で9割が廃業」は、ほぼ正確なデータといえます。「普通の自営業者のやり方」を真似していると、そうなってしまうのです。
だから、たとえ周りの自営業者が「ずるい節税」をしていたとしても、彼らの真似をしてはいけません。
なぜ取引先から信用されないか
これは主に下の2つの理由です。
- ずるい節税をする人は、日頃の仕事ぶりにもずるさが出る
- 振込先の指定や領収書の書き方などに不審な点が出る
そして、決定的なのが税務調査で取引先まで調べられることです。これが特に致命的といえます。
税務署から税務調査・追徴課税を受ける
税務調査自体は、丸一日~数日時間をとられる程度で、大したデメリットではありません。また、追徴課税もよほど悪質な脱税をしない限り、さほどの高額にはなりません。
問題は、取引先に税務署からの調査が入った時点で、信用を失うという点です。税務署は「反面調査」という、取引先への聞き取りを行います。
あなたが普通にビジネスをしていて「利益が急激に伸びたので、念のために調査された」などの理由なら、取引先の信用を失うこともありません。しかし、脱税のようなことをしていて調査されたなら、取引先にはそれがわかります。
このようなリスクがあるため「ずるい節税」をしてはいけないのです。
自営業の節税手法・基本の4パターン
自営業の節税手法は、下の4つに大別できます。
手法 | 適法性 |
---|---|
共済・特例を駆使する | 完全合法 |
生活費を経費にする | 合法(仕事に必要な費用なら) |
家族・友人・恋人を従業員にする | 合法(本当に仕事をしていたら) |
架空の経費を計上する | 違法(粉飾決算になる) |
ちなみに個人事業主が法人化すると、さらに多様な節税手法を使えます。個人事業主(フリーランス)の法人化については、下の記事でも詳しくまとめています。
共済・特例を駆使する:完全合法
自営業者は、サラリーマンでは使えない下のような共済・特例を使えます。
- 経営セーフティ共済
- 小規模企業共済
- 少額減価償却資産の特例
- 短期前払費用の特例
上の4つに支払った金額は、ほぼ全額控除されます。その分節税になるのです。詳しくは下の段落で説明します。
生活費を経費にする:合法
自営業は生活費の一部を経費にできます。わかりやすいのは下のようなものです。
- 水道光熱費
- 家賃・地代
- 携帯・ネット料金
たとえば自宅で仕事をしているフリーランスなら、一人暮らしで質素な生活という最低ラインの条件でも、年間18万円は控除できます。この計算は下の段落で詳しく解説します。
家族等を従業員にする:合法
たとえば年収(給与収入)が1000万円とします。この場合、所得税と住民税の合計は約180万円です。
しかし、仮に家族が3人いて「4人で分散」したら、1人当たりの年収は250万円です。この場合、1人あたりの所得税・住民税の合計は約18万円です。
このとき、トータルの税金は下のように変化します。
1人で1000万円 | 約180万円 |
4人で1000万円 | 約72万円(18万円×4) |
このように、税額が半分以下になるのです。もちろん、この3人の家族は「本当に働いている」必要があります。
ただの節税のために家族に給与を出すことはできません。しかし、実際にその給与(年収250万円)に相応しい仕事をしていたなら、この節税ができるのです。
(もちろん、その場合は家族の活躍によってもう少し年収が増える可能性もありますが)
【参考】所得税計算ツール
架空の経費を計上する:違法
使っていない経費を計上して、利益を小さくする方法です。粉飾決算と呼ばれる手法であり、完全に違法です。
粉飾決算がバレる原因は、主に下のようなものです。
- 同業・同規模の他社との経費の違い
- 取引先・購入先の税申告とのズレ
- 関係者による密告
わずかな粉飾決算なら、税務署が見落とすこともあります。しかし、はっきりと節税効果が出るほどの大規模な粉飾決算なら、上のような理由で「大抵バレる」と考えてください。
架空の経費を計上する脱税については、下の記事でも詳しく解説しています。「サラリーマンが自営業者として副業もしている場合」の脱税の手口(逮捕者も出たもの)を解説したものです。
(当然ですが警告用に書いた内容であり、絶対に真似してはいけない手口です)
自営業は所得税がかからない?利益570万円程度は非課税
「自営業は所得税がかからない」と言われることがあります。これはあながち間違いではありません。下の3つの控除や経費で、自営業者ならほぼ誰でも利益570万円程度まで非課税にできるのです。
基本の控除 | 約150万円 |
共済・特例 | 約400万円 |
家賃・光熱費等 | 約20万円 |
合計 | 約570万円 |
たとえば、諸経費を抜いた後の粗利が700万円だったら、130万円が年収(課税所得)になります。年収130万円なら所得税率は5%なので、130万円の5%で6.5万円です。ほぼ非課税に近いでしょう。
ここからは、上の表の金額がどのような計算で出るのかを解説していきます。
基本の控除:約150万円
まず、サラリーマンでも受けられるような基本的な控除が、約150万円です。内訳は下の段落で解説します。
共済・特例:約400万円(ほぼ誰でも毎年)
4種類の共済・特例を使うと、自営業者ほぼ全員が、毎年約400万円を控除できます。内訳は下の段落で説明します。
家賃・光熱費等:約20万円(ほぼ誰でも毎年)
家賃や光熱費で「妥当な金額」は、経費にできます。そして、その最低ラインがおおよそ20万円です。
「一人暮らしで、贅沢しない質素な金額」で計算しています。月額・年額を書くと下のとおりです。
項目 | 月額 | 年額 |
---|---|---|
家賃 | 4万円 | 48万円 |
水道代 | 0.3万円 | 3.6万円 |
電気代 | 0.5万円 | 6万円 |
ガス代 | 0.3万円 | 3.6万円 |
携帯料金 | 0.5万円 | 6万円 |
ネット料金 | 0.4万円 | 4.8万円 |
合計 | 6万円 | 72万円 |
72万円を4分の1にすると、18万円です。これはほぼ確実に認められます。
- 家賃4万円のワンルーム
- 毎日8時間(1日の3分の1)
- 週休2日(週の約7割稼働)
この条件なら、単純計算で「4分の1が経費」になります。正確には18万円ですが、年間2万円ほどの地震保険料など、雑費も入れれば確実に20万円には達します。そのため、ここでは20万円としています。
基本の控除・約150万円の内訳
自営業者はまず、基本的な控除で約150万円が引かれます。内訳は下のとおりです。
基礎控除 | 48万円 |
青色申告特別控除 | 65万円 |
社会保険料控除 | 約27万円(年収180万円の場合) |
生命保険料控除 | 12万円 |
合計 | 約152万円 |
ただ、これはサラリーマンでも同等のものがあるので、自営業者が有利ということではありません。あくまで「計算の参考」と考えてください。
基礎控除:48万
基礎控除は必ず控除される金額です。これは自営業者でもサラリーマンでも48万円です。
2020年(令和2年)から変更に
以前、基礎控除は38万円でした。しかし、2020年から48万円になります(年収2400万円万円までは)。
【参考】基礎控除 | 国税庁
青色申告特別控除:65万
確定申告を青色申告にすると受けられる控除です。条件は下の2つです。
- 事前に税務署に申し出ておく
- 正規の簿記(複式簿記)で帳簿をつける
自営業者のほとんどは青色申告をしており、この控除を受けています。基礎控除の48万円と合わせて113万円が最初から控除される状態です。
【参考】青色申告特別控除 | 国税庁
社会保険料控除:約27万
主に「健康保険・年金」の月々の支払いが控除されるものです。年収180万円なら、年間約27万円になります。
【参考】年収別 手取り金額一覧(年収100万円~年収1億円まで)| 酒居会計事務所
なぜ「年収180万円」で計算するのか
理由は、最低賃金がおおよそ「月収15万円」だからです。正確には「14万3,000円」です。月収15万円なら、年収で180万円になります。
生命保険料控除:12万
生命保険料控除とは、生命保険に毎月支払うお金が経費になるルールです。ただ、全額ではありません。年間12万円までというルールです。
【参考】生命保険料控除 | 国税庁
正確には3種類に分かれる
生命保険料控除は、正確には下の3種類に分かれます。
- 生命保険料控除
- 介護医療保険料控除
- 個人年金保険料控除
それぞれ最大4万円まで控除できるため、合計で最大12万円控除できるということです。
共済・特例・約400万円の内訳
自営業者は、下の4種類の共済・特例によって、約400万円を無理なく控除できます。
経営セーフティ共済 | 最大240万(1年目は480万) |
小規模企業共済加入 | 最大84万 |
少額減価償却資産の特例 | 最大300万(30万が現実的) |
短期前払費用の特例 | その支払いによる(50万は現実的) |
合計 | 394万(①&②は最大、③は30万、④は50万の場合) |
「無理なく」とは下の意味です。
- ムダな買い物をする必要がない
- グレーな経費計上もしなくていい
- 本当に事業に必要なものだけを買い、この金額
ということです。つまり、年間約400万円は、ほとんどの自営業者が控除できるわけです。
先に書いた基礎的な控除・約150万円と合わせて約550万円です。
経営セーフティ共済:最大240万
出典:経営セーフティ共済
経営セーフティ共済とは、倒産防止のための積み立てです。この積み立てに支払ったお金は、全額非課税になります。
- 月間20万円まで払える
- 年間240万円まで払える
- 初年度は「来年の分」も払える
つまり、節税できる金額(控除できる金額)は下のようになります。
初年度 | 480万円 |
2年目以降 | 240万円 |
もちろん、これは「最大金額」です。もっと小さくしてもかまいません。
小規模企業共済:最大84万
出典:小規模企業共済
小規模企業共済とは「自営業者用の積み立て」です。経営セーフティ共済との違いは下の点です。
- 取引先の倒産は関係がない
- 自分が引退・廃業するときに使う
- 掛け金を一括でなく分割で受け取ることもできる
- 一括で受け取る場合、退職所得にできる
たとえば高齢になって引退する場合、小規模企業共済は個人年金や退職金のように使えます。倒産・廃業してしまったときには、失業保険のように使えます。
一括でなく分割で受け取れるメリット
これは「課税されにくい」ということ。一括で受け取ると、その金額に課税されてしまいます。
実は、経営セーフティ共済はこうして課税されるのです。つまり、完全に節税できたわけではなく「課税を先延ばしにしている」だけなんですね。
そのため、大きな赤字が出たタイミングなどで受け取る必要があります。
逆に小規模企業共済は分割で受け取り可能です。そのため、年金のように毎年少しずつ受け取ることで、全額非課税にできるのです。
※なお、iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自営業者の場合はここ(小規模企業共済)に含まれます。
少額減価償却資産の特例:30万が現実的
少額減価償却資産の特例とは、
- 本来数年に分割して経費にするものを、
- 1年で一括して経費にできる
という特例です。経費が大きくなるので、その年の節税になります。
自営業者の場合、この特例で年間300万円まで経費にできます。
- 「30万円未満の物」なら、一括で経費にしていい
- その総額が「年間300万円」になるまでOK
ということです。たとえば29万円のパソコンだったら、10台まで一括で経費にできるということです。もちろん、全部同じ物でなく、バラバラの物でかまいません(パソコン・プリンタ・中古車など)。
【参考】中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例 | 国税庁
「30万円が現実的」の意味
これは下の2つの意味で書いています。
- 本当に事業に必要なもの
- 自営業者全員に、ほぼ毎年当てはまる
当たり前ですが、節税のために何か買うというのは、違法ではないもののグレーです。また、何より自分のお金を減らしているので意味がないのです。
あくまで「本当に事業に必要なもの」で30万円未満の償却資産というと、毎年発生するものは「30万円程度だろう」ということです。
- ハイスペックなパソコン1台
- 格安中古車1台
- プリンタなどの機器の合計
ということですね。あくまで例ですが「確かに30万円なら毎年行きそうだな」と感じる人が多いでしょう。
(実際、国がマックスで300万円まで認めているほどですから、30万円は「普通にしていても発生する」と考えられます)
短期前払費用の特例:50万が現実的
短期前払費用の特例とは来年の出費を今年経費にできる特例です。来年確実に払うことがわかっている支払いを、先にするわけです。
これでいくらまで節税できるかは、その支払いによります。極端な話、1000万円の支払いでもOKです。
ただ、先払いは当然リスクがあります。相手が期待どおりに動いてくれるとは限りません。
これは節税全般でいえることですが、多少税金を払っても、妙な節税をしない方がトータルでプラスになることもあるということは、忘れないようにしましょう。
「50万円が現実的」の具体例
たとえば、僕の知り合いは、PIXTAという写真素材サイトで年間契約をしています。これが月3万円なので、年間36万円です。
これは、PIXTAに相談して「請求書支払い」にすることで、来年分も先に支払いできます。PIXTAとしては1年分先払いでもらえるわけですから、当然ありがたい話です。
誰でも使えるのは家賃の先払い
誰でも使える方法は、家賃やマンションの管理費の先払いです。賃貸はもちろん、持ち家でも毎月の管理費はあります。
これを大家さんや組合に「1年分先払いしたい」といえば、おそらくOKしてくれます。向こうにとってメリットしかないためです。
もちろん、手続きに少し時間がかかります。そのため、10月~11月には連絡しておきましょう。12月では間に合わない可能性があります。
マンションが持ち家でも、大体月2万5,000円は払うものです。これだけで約30万円です。
その他も、あらゆる支払いで先方に相談して1年分前払いすれば、誰でも毎年50万円は行くでしょう。
これは脱税にならない?
全くなりません。国税庁がわざわざ「短期前払費用の特例」というルールまで用意しているためです。
ただ、前払いすれば当然リスクがあります。家賃に関していえば大家さんが自己破産して契約が無効になるというリスクもゼロではありません。
その他、先に支払ったいろいろなものが「後から無効にされる」というリスクもあるでしょう。
ただ、たとえば先の例に出したPIXTAの年間契約なら、無効になることはまずありません。こういう「安心できる支払い」だけでも、利益700万円程度の自営業者だったら、年間50万円には達するはずです。
個人事業主はなんでも経費になる?
「個人事業主はなんでも経費になる」と言われることがしばしばあります。これは間違いなのですが、どう間違いなのか下の3点に分けて説明します。
以下、それぞれの説明です。
生活費・私物を経費にするのは違法
個人の生活費や私物を経費にするのは違法です。逮捕されることはまずありませんが、追徴課税などの罰則を受けるリスクはあります。
個人事業主が生活費を経費にしていいのは、あくまで「本当に事業で使った分」だけです。自宅をオフィスにしていたらこの割合も高くなります。
しかし、オフィスを別にしていたら、生活費を経費にできる割合はかなり低くなります。オフィスが別だと信頼されるのは、このように公私混同をしにくいことも理由の一つです。
税務署が受け付けても、後日税務調査がくることも
確定申告をすれば、税務署はひとまず受け付けてくれます。しかし、それは「内容にOKを出した」ということではありません。
その内容を精査した結果、後日税務調査が来ることもあるのです。それも、わざと数年「泳がせてから」来ることがあります。
泳がせる方が脱税に加担する人間が増え、芋づる式に摘発しやすくなるためです。また、追徴課税の金額が大きくなり、担当職員の手柄が大きくなるという理由もあります。
個人事業主が税務調査を受ける確率は1.1%
上の段落で「後日税務調査が来る」と書いたものの、実際に来る確率は1.1%です(平成28年度のデータ)。
【PDF】税務行政の現状と課題(※少々重いです) | 国税庁
税務署は基本的に「怪しい事業者」から調査に入ります。その怪しい事業者でも、1.1%の確率でしか調査が来ないわけです。
つまり、よほど怪しいことをしない限り、個人事業主に税務調査が来ることはないともいえます。だからといって「少しなら怪しいことをしてもいい」ということは絶対にありません。
自営業のずるい節税手法・まとめ
結論をまとめると、下のようになります。
- 自営業者でも「ずるい節税」はない
- 「正しく、ハイレベルな節税」はある
- 粗利で570万までは非課税になる
- 生活費として年収180万程度は申告すべき
- 粗利が合計750万でも、年収180万の扱いになる
最後の利益750万でも年収180万扱いというのを、一つの目安にするといいでしょう。ただ、これをやるには経営セーフティ共済などへの加入手続きをすべてこなす必要があります。
こうした手続きを完璧にできている自営業者は、意外に少ないものです。決して楽ではないのですが、その手続きさえしっかりすれば、自営業者は完全合法で高いレベルの節税をできると理解してください。